東京高等裁判所 平成2年(行コ)74号 判決 1990年11月27日
東京都江東区大島八丁目三九番二二―七一三号
控訴人
安元孝弘
東京都江東区亀戸二丁目一七番八号
被控訴人
徳山税務署長事務承継者 江東東税務署長 岡田俊雄
右指定代理人
沼田寛
杦田喜逸
小林英樹
高橋俊和
丸山将利
右当事者間の所得税更正並びに加算税賦課決定処分一部取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二)(1) 徳山税務署長が控訴人の昭和五七年分所得税について昭和六一年三月八日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、課税総所得金額九〇二万一〇〇〇円、納付すべき税額二一六万七九〇〇円、過少申告加算税額九万一〇〇〇円を超える部分を取り消す。
(2) 徳山税務署長が控訴人の昭和五八年分所得税について昭和六一年三月八日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし、平成元年二月二八日付け過少申告加算税変更決定により減額された後のもの)のうち、課税総所得金額七四〇万三〇〇〇円、納付すべき税額一五七万七〇〇〇円、過少申告加算税額二万六〇〇〇円を超える部分を取り消す。
(3) 徳山税務署長が控訴人の昭和五九年分所得税について昭和六一年三月八日付けでした更生及び過少申告加算税賦課決定(ただし、平成元年二月二八日付け過少申告加算税変更決定により減額された後のもの)のうち、課税総所得金額四八五万九〇〇〇円、納付すべき税額八四万三二〇〇円、過少申告加算税額二万八六〇〇円を超える部分を取り消す。
(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文同旨
二 当事者の主張
当事者の主張は、次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
原判決一二枚目表二行目の末尾に、次のとおり加える。
「すなわち、久留米ラーメンの賃料収入は、土地建物の事実上の所有者の安元義隆(控訴人の父)に帰属するものであり、ドライブインふじやの賃料収入は、昭和五八年二月まで敷地の所有者であった安元義隆に半分以上帰属するものであり、ラッキーセブン及びドライブイン大谷の賃料収入は、建物の所有者の安元孔子(控訴人の妻)および敷地の所有者の安元義隆に帰属するものである。」
三 証拠関係
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人の請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
原判決一九枚目表六行目から二二枚目表四行目までを次のとおり改める。
「(一) 不動産賃貸収入の金額
被控訴人の主張1(一)(1)(不動産賃貸収入の金額)について、控訴人は、当初その全部を認めたが、その後、久留米ラーメン、ドライブインふじや、ラッキーセブン及びドライブイン大谷に係る部分について、従前は税法に対する無知のため誤った主張をしたものであるとして、自白を撤回し、右各物件に係る賃貸収入の全部が控訴人に帰属することを否認するに至った。
ところで、自白の撤回は、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づく場合でなければ許されないと解すべきであるから、以下、この点について検討する。
成立に争いのない甲第一五、第一六号証、第一八号証、第二八ないし第三四号証、第三六、第三七号証、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第二四ないし第二六号証及び弁論の全趣旨によれば、右各物件に係る賃料収入が控訴人に帰属するものでないとの控訴人の主張にそうものとして、次の事実が認められる。
(1) 久留米ラーメンの建物の敷地は、昭和四三年二月に控訴人が取得して控訴人名義で所有権取得登記をし、同年一一月にその地上に建物を新築して控訴人名義で所有権保存登記をしたものであるところ、右建物及び敷地については、昭和五二年四月二八日受付で、昭和五一年一二月一〇日の売買を原因として安元義隆名義の所有権移転仮登記がされたが、昭和五八年二月八日受付で同月七日の解除を原因として抹消登記がされている。また、久留米ラーメンの土地建物については、安元義隆を賃貸人とする土地建物賃貸借契約書二通(賃貸期間を昭和五五年四月一日から昭和五七年三月三一日とするもの及び昭和五七年四月一日から昭和六〇年三月三一日までとするもの各一通。甲第二〇号証、第二二号証)が存在しており、さらに昭和五七年ないし昭和五九年分の賃料が賃借人から安元義隆名義の銀行口座に振り込まれている。
(2) ドライブインふじやの建物は控訴人の所有であるが、敷地については、昭和四八年一一月三〇日受付で、同年一〇月二二日の売買を原因として元の所有者藤村新から安元義隆名義に所有権取得登記がされ、さらに昭和五八年二月一八日受付で安元義隆名義から控訴人の経営する有限会社毛利公名義に所有権移転登記がされた。また、ドライブインふじやに係る昭和五七年ないし昭和五九年分の賃料の半額が賃借人から安元義隆名義の銀行口座に振り込まれている。
(3) ラッキーセブンの建物の敷地は、控訴人が取得し、控訴人名義で所有権取得登記をしたが、建物については、昭和五三年三月一三日受付で控訴人の妻の旧姓である須山孔子名義で保存登記がされた。なお、敷地について、その後(1)と同様に、安元義隆名義に所有権移転仮登記がされたが、抹消登記がされた。また、賃貸人を須山孔子及び安元義隆とする賃貸借契約書(賃貸期間を昭和五六年五月一日から昭和五八年四月三〇日とするもの。甲第三五号証)が存在する。
(4) ドライブイン大谷の建物の敷地は、昭和五一年四月に控訴人が取得し、その旨の登記をしたが、同時に取得した建物については、控訴人の妻の安元孔子名義で所有権取得登記がされている。なお、敷地について(1)(3)と同様にその後売買を原因として安元義隆名義に所有権移転仮登記がされたが、後に抹消登記がされた。また、ドライブイン大谷の土地建物について、賃貸人を安元義隆とする賃貸借契約書一通(賃貸期間を昭和五六年五月二六日から昭和五八年五月二六日とするもの。甲第二一号証)が存在し、昭和五七年ないし昭和五九年分の賃料が賃借人から安元義隆名義の銀行口座に振り込まれている。
しかしながら、他方、成立に争いのない甲第七号証、第一八号証、乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件の異議申立て及び審査請求のいずれの段階においても、久留米ラーメン、ラッキーセブン及びドライブイン大谷に係る賃料収入については、少なくとも本訴で被控訴人の主張する額が控訴人に帰属することを一貫して認めていたこと、ドライブインふじやについても、賃料収入に係る所得の種類が不動産所得であることは争ってこれを事業所得であると主張してはいたものの、右収入が控訴人に帰属すること自体については争っていなかったことが認められる。仮に、真実右の各物件の賃貸人が安元義隆あるいは安元孔子であって、これに係る賃料収入が控訴人に帰属しないのであれば、これらの控訴人の態度はきわめて不自然なものといわざるをえない。控訴人は、所得が父義隆のものであると主張すると、調査などで父の相続人である母に迷惑が及ぶことをおそれたかのようにいうが、そのような事情があったとしても、先に見た(1)ないし(4)の事実関係については、控訴人は明確に認識していたものであって何らの誤認もなかったものである。
また、前掲甲第一八号証、第三二号証及び弁論の全趣旨によると、控訴人の父安元義隆は、昭和五七年当時既に老齢であり、一貫して山口県大島郡大島町に居住していたもののごとくであって(なお、前掲甲第二四ないし第二六号証によると、前記安元義隆名義の銀行口座も右大島町にあるものではなく、広島市その他にあるものと認められる。)安元義隆自身は右各不動産の管理に関与しているとは認められず、安元孔子も控訴人の妻であり、しかも一時四年間ほど控訴人と離婚していたりしており、不動産の管理に主体的に関与しているとはうかがえない。
さらに、本件において、控訴人は右各物件の収入の必要経費に関し、控訴人自身が増改築をしたなどと主張し、その証拠として甲第九ないし第一一号証及び第二七号証を提出しているのであって、こうした控訴人の控訴追行の態度自体からしても、右各物件に係る賃料収入が控訴人に帰属しないとはいいがたい上、後にみるように、右甲号各証の成立及び信用性を肯定することはできないけれども、これらの存在・記載からして、控訴人自身が右各物件の管理について契約の当事者等となっていることが認められ、これらから得られる賃料収入が控訴人に帰属しないとは到底いえない。
さらに、前記(1)ないし(4)の事実関係自体についてみても、土地建物の名義と賃貸借契約における賃貸人の名義と預金口座の名義の三者の間に一貫性がなく、相互に矛盾しているのである。
こうしてみると、むしろ、控訴人が右各物件の取得及び賃貸に当たって一部安元義隆あるいは安元孔子の名義を使用したことがあるにすぎないものとみることができる。したがって、前記(1)ないし(4)の事実をもって、直ちに右各物件に係る賃料収入が控訴人に帰属しないと認めることはできない。
以上にみたように、控訴人が右各物件に係る賃料収入が控訴人に帰属することを認めたことは錯誤に基づくといえないばかりか、真実に反するものと認めることもできない。
ほかに、控訴人の自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものと認めるに足りる証拠はないから、控訴人の自白の撤回は許されないというべきであり、そうすると、不動産収入の金額については、すべて当事者間に争いがないことになる。」
二 以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 裁判官 坂井満)